リンゴ高密植栽培
High Denstiy Planting
フェザー苗
フェザー苗の養成
1 はじめに
高密植栽培の成功のキーのひとつに、品質の高い揃ったフェザー苗を定植することにある。昔から野菜では苗半作と云われているが、本栽培は苗8割であるとされる。そこで、良質はフェザー苗を入手するには苗木商から購入することが手っ取り早いが、ここでは苗木養成をする手法と技術的課題・対策を紹介します。
1年生フェザー苗 2年生カットツリー
2 技術的課題と対策
課題1;生育が揃わない
⇒ 十分に揃った台木をもちいる
基本的に、太く根量の多い台木ほど育苗では有利なことが多い。発根があり、接木部位(根から40㎝付近)の直径が鉛筆大の7㎜程度の台木を育苗に用いるが、実際の接ぎ木作業は、直径5㎜程度のものから可能と思われる。発根についても、全く根のない状態でさえなければ(秋根が数本でも出ていれば)2年生のカットツリーを育成して概ね良好な苗木にできた実例もある。
⇒ 苗木ほ場の準備をしっかり行う
改植障害の心配がなく、土壌条件(排水,保水,通気など)がよく、かん水しやすい場所を選ぶ。有効土層が厚く、地下水位が高くないこと、病害の心配がなくあらかじめ雑草が抑制されていることも重要である。条件の悪い場所で急いで育苗をスタートしてしまうよりも、時間や経費がかかっても条件を整えてから育苗に取りかかることが結局は近道である。
*苗木ほ場の連作は絶対に避ける
⇒元肥を多施用にしない
必要な栄養生長を確保するためには、ある程度の肥効が重要と思われる。しかし、新梢の不要な遅伸びは避けたいので、元肥として窒素分を多く入れすぎないようにする。即効性の追肥を主体に考えれば、切りたい時期に肥効を切りやすいと考えられる。ただし、土壌が乾燥していると、それだけでストレスがかかるうえに、追肥してもすぐに吸収されない。追肥はかん水と合わせて考えるべきである。夏以降は、遅伸びさせたくないので生育の状況を見てなるべく早めに追肥をストップする。
⇒雑草管理を徹底する
雑草が抑制されていないほ場でむやみに追肥を施すと、草ばかりが生い茂って、苗木に必要な養水分が届かないという事になりがちである。雑草の繁茂は苗木の生育を不安定にするとともに、病害虫の発生、野ネズミの侵入を許すので育苗ではタブーである.苗木ほ場の開設前年の準備、早い段階での雑草抑制が重要である。
生育中の除草剤は、吸収移行のない商品(Ex;プリグロックス等)を使用する。
⇒各種生育のストレスの排除
水ストレス、雑草との競合、日射不足、栄養不足、病虫害、改植障害、低温(高温)などによる生育抑制があると新梢発生が少ない。
これらの抑制を排除し、良好な苗木生育を確保すれば最大の新梢発生が得られ、そのうえで頂芽優勢をコントロールすることによって、生育を多数の新梢発生に振り向けることが可能となる。
課題2;生育が旺盛すぎる
⇒ 適度な生育が得るために揃った台木を用いる
ほ場条件によって苗木の生育は異なり、旺盛に生育しすぎる場合もある。カットツリーにする場合は、1年目(接ぎ木当年)の生育はそれほど必要ないので、ほ場の状況に応じて使用する台木のサイズを落としたり、生育の弱い品種に替えたりなどの対応をとる。
⇒ 施肥を見直す
元肥に窒素分の多いきゅう肥などが多用されていると、降雨の状況によっては新梢停止が極端に遅れるなど、徒長的な生育に陥ることがある。施肥を見直し夏以降は窒素が遅効きしない管理が必要である。
課題3;フェザーが発生しない又は少ない
⇒ ビーエー液剤が効かない要因と対策
①土壌の過乾または過湿によるストレス → かん水設備、排水対策
②改植障害によるストレスがないかどうか
③台木品質の不揃いがなかったかどうか
④雑草との競合による生育の抑制がなかったどうか
⑤ビーエー散布直後に夕立のような雨に遭わなかったか
⑥ビーエー散布は適正に行われたかどうか → 散布倍率・散布量・散布位置
⑦日照不足
⑧病害虫の発生
⑨その他 野ネズミ等の被害
課題4;カットツリーの育成2年目に発芽が揃わない、発芽しない(枯れる)
⇒ 排水対策を重点的に行う
排水のよくない場所では育苗しないのが基本。必要に応じて事前に耕盤破砕、暗きょ排水、土壌改良資材の投入などを行う。生育期間中は軟弱徒長、弱樹勢、強樹勢を避ける。過密を避け土壌水分管理、雑草防除、病害虫防除を行い、健全な生育を促す。苗木においても光条件は重要である。
⇒ 断根処理
カットツリーの育成2年目の2月下旬~3月上旬頃に、軽い断根(根のせん定(root pruning))をねらって列間の中耕を行うと枯死がほとんどなくなり、発芽が揃う傾向が認められている。ただし、断根が強いと当然ながら苗木の生育が抑制され、逆に弱いと狙った効果が十分得られないことがあり、実施にあたっては注意が必要である。例として、列から片側25~30㎝程度の距離で、深さ10~15㎝程度にスコップを入れるか、ほぼ同じ位置で根が切れるよう、小型管理機のロータリー刃の深さと走行コースを調整して中耕すると概ねよい結果が得られている。
軽い断根により春期の吸水がある程度抑制され、凍害が軽減するものと考えられる。このような断根の効果は、休眠期間中であれば前年の秋に行った場合でも概ね同様と考えられる。
⇒ 1年目は過度に大きな苗木にしない
接ぎ木当年の生育が徒長気味だと、切り戻す位置の芽の充実がよくないといわれている。過密な条件で徒長すると下部の光が不足し、このようなことになりやすいと考えられる。旺盛な品種に対して太めで根量の多い台木を用い、旺盛になりやすい土壌条件の場所で育苗する場合には注意する。春に切り戻しを行った直後、切り口からの樹液の溢出があると、発芽不良又は枯死することが多い。早春期に土壌水分が多く、根の活動も早まって吸水が盛んに行われているような場合、樹液の溢出が生じやすく低温に遭遇すると凍害を誘発し、発芽不良、枯死を生じやすい。
(H22 うまくだ中央講習会資料 一部改)
JA長野県営農センター指導会資料 一部改